平成27年3月7日(土)・8日(日)に開催されたセミナーの様子を紹介します

7日(土)14:00〜17:40
 講義1
「暗闇のモグラの世界を探るには」
  
モグラは身近に見られる野生ほ乳類ですが、半数に保護の必要性があるそうです。 富山県にはアズマモグラが優占していますが、大型の個体で300mほどのトンネルを使って生活しているようです。 そして行動圏にはほとんど重なりがなく、排他的な縄張りとなっているそうです。巣穴の広がりを調べるために、モグラの尻に発信器をつけ電波で探知します。 おもしろいことにモグラにも1日のリズムがありますが、人間の活動により攪乱されることがあります。この場合も人間の活動が活発でない土曜、日曜には元のリズムに戻っている。 モグラがミミズを食べる時、最初はミミズの頭の方から食べます。しかし途中で向きを変えしっぽの方から食べるそうです。腸内の土を前足でしごき排出するようにして食べているそうです。

 実習1「トンネル観察と罠の設置、ラジオテレメトリー実演」
実際にフィールドに出て、モグラの巣穴を観察。研修センターの芝生広場にもたくさんのモグラ塚がありました。 巣穴を広げ、ワナを仕掛けてみました。基本的には巣穴の延長線上に入り込んだら出られない仕掛け。重力式、バネ式などの種類があります。 ラジオテレメトリーの実習では隠された発信器をアンテナ片手に探してみました。残念ながら電波を拾うことができず、発信器を発見することはできませんでしたが、自然の中ではこのようなことの方が多いのだと思います。


 講義2「モグラと人と環境と 1.モグラに迫る絶滅の危機」
Smallが提唱した人に好かれる生き物、嫌われる生き物で分類するとセンカクモグラは−1。一般のモグラは−2。残念ながら嫌われる動物の仲間。主な判断基準は、豊満・ふっくらしている。見た目が美しい。人に近い系統(ほ乳類など)である。優雅など。土の中の生物はそれだけで減点されるらしい。 嫌われる?生き物も保護すべきかという議論もありますが、種の多様性の観点からはすべての生き物が守られるべき。嫌われ者の蚊も幼虫のボウフラは水の浄化に役立っているなど、人間の好き嫌いで論ずるべきことではありません。 モグラの分布には偏りがあり、東日本にはコウベモグラは全くいませんが、西日本にはアズマモグラの生息域があります。これはアズマモグラが生息していた地域にコウベモグラが進入してきたことを示しているそうです。ここ10年ほどで種の交代がおこった地域もあるそうです。

 実習2「モグラの外部計測と比較標本作成」
とらえたモグラはすべて剥製にするのではなく、スペースの問題もあり、平面的な標本にすることが多いそうです。その際も手の大きさや、体長など測定可能は数値はすべて記録します。おしりの方から骨や肉を抜き取り、乾燥させてつくります。

18:00〜19:00  夕食   

19:00〜???  とことんセミナー
  
談話室でとことんセミナー。お茶やジュースで乾杯した後、横畑先生や大学院生の方に質問をしました。モグラのことだけでなく研究のことや勉強のことはもちろん、 生き物を、環境を守るとはいったいどういう事なのか。真剣に悩んでしまいました。いろいろな質問が出て、普段聞くことのできないお話をたくさん聞くことができました。 悩みごとなどにたくさん相談に乗っていただき、和やかな雰囲気の楽しい時間を過ごしました。


8日(日)8:45〜11:20
 実習3「モグラの頭骨標本作製と寄生虫の観察」
実際にモグラの頭骨を使って標本作製をしました。65度のお湯に一晩つけたモグラの頭はホロホロで、肉がすぐにとれます。皮をはぎ、あごをはずして観察、スケッチしました。 細かい骨なども(ほお骨)あり、また下あごは簡単にばらばらになってしまうので、注意が必要。 モグラの年齢は奥歯3本のすり減り具合から推定するそうです。エナメル質がすり減り、象牙質が露出している個体ほど老齢。モグラの腸内にいる寄生虫についても、サンプルを観察しました。


 実習4「モグラの生体観察」
残念ながら研修センターでもぐらを捕まえることはできませんでしたが、富山大学で飼育中のモグラを観察しました。 狭い穴の中でどうやって方向転換するのか。なかなか見せてくれませんでしたが、なるほどと思わず納得する方法で向きを変えていました。 エサのミミズを与えると、前日の講義で聴いたように前足でしごいていました。

 講義3「モグラと人と環境と 2.モグラと放射能汚染」
モグラは土壌生物を補食するので環境指標生物として有用性が指摘されてきたそうです。しかし捕獲が面倒なこともあり、国内外で放射能汚染の影響が調べられたことはなかったそうです。 福島での捕獲調査の結果、モグラについてみると、セシウムでは土壌中の濃度より1〜2桁少ない。これはセシウムが水溶性のため、生態濃縮がおきていないと考えられます。 しかし体毛の部分白化現象の福島における出現率は、これまでに比べ明らかに高かったそうです。白化現象はチェルノブイリでも見られた現象です。 福島では今、耕作放棄されている田畑がたくさんあり、植物が入り込み(遷移)草原になっています。モグラはここにももちろん入り込んでいるため、耕作が再開された場合には個体数の増加に伴うモグラ被害が一時的に増加する懸念があるそうです。

 11:20〜11:45 参加者へのメッセージ
 
最後に2日間を通しての感想と、アドバイスをいただきました。研究にかける熱いメッセージや期待が参加者に伝えられました。